「一週間ぶりに次の階に行くことができました」
「ていうかもう帰ってもいいと思うんだけどなあ」
「ほら、3階を進むわよ。ん?どうしたのパチェ」
「なんかワンちゃんが通せんぼしているの」
「なんなのこの犬は。人様にむかって生意気ね」
「わぁ、可愛いな。首輪と鎖で行動を束縛して家に置いておきたいな」
「『ペットにする』という表現を使ってちょうだい、今の発言は咲夜レベルの変態よ」
「これ飼い犬ですね。首輪してますよ。」
「やろうっていうのかしら」
「でも殺意は感じないわね。この道を行かず別の道を行け、って言ってるように見えるわ」
「人間様は生態系の頂点だけど、今回は折れてやるか」
「まああたしら人間ではないですけどね。あ、今度は人間がいますよ」
「さっきのワンちゃんは彼のだったのね」
「そういえばペットを冒険に連れていく冒険者もいるって聞いたことがあるな」
「彼から磁軸の柱について教えてもらいました。親切な人でよかったですね」
「ちょっと小馬鹿にされている気もしたけど」
「それはお嬢様の心が狭いからですよ。」
「3階の敵は堅いのが多いわね。瞬殺できなくてイライラするわ」
「硬くはないけど『オオテントウ』がすごく面倒。敵全員のAGI上げるせいでこっちの攻撃が当たらなくなるし、ラスト一匹になるとでかい花呼ぶし。」
「『ラフレシア』ね〜。でも稼ぎにはいいんじゃない?そこそこ倒せるようになったし」
「採掘中にいきなり現れるよりはマシですからね。あと装備面なんですけど斧や銃や弓はやたら強いのが売られているのに何で剣や鞭はないんですかね?」
「このメンバーが装備可能なのは『剣・鞭・杖』だからどれも使えないな」
「杖は強い『マイマイクラブ』が売られてるけど、後衛のあたしが装備してもね〜」
「あっ、いま宝箱の中に『ボアスピアソード』があったよ!!美鈴さん装備してね」
「あらよかったわね。ありがたく受け取りなさい。」
「装備より休暇が欲しいです」
「ぶつくさ言わないで進むわよ」
「あれ、さっきの人が門の前に立ちふさがっているよ?」
「えっと、なんか大公宮に話を聞いてこい、それまでここは通さないとのことみたい」
「ええ〜、せっかくここまできたのに面倒くさいなあ。こいつ張ったおして先に進もうよ」
「いえ、彼はかなりできますよ。多分この4人でも敵わないでしょう。引き返した方が賢明です」
「なによ急に。フランの言う通りまたここまで来るのは骨が折れるわよ」
「大丈夫ですって、いったん帰っても磁軸の柱で入口から直で3階に行けますし、抜け道もあるのでそんなに時間はかかりませんよ」
「……惚れたの?」
「うわっ、そういうフラグかよ。」
「何言ってるんすか。男にも女にも興味はありません」
「その言い方はどうなのよ」
「いや、でもなんか必死だし、目が泳いでいるし」
「あんたらにあたしのなにが分かるってんだ!ここんとこ毎日じめじめして臭い森ん中入らされてほぼ作業な肉体労働を気が触れている連中と行わされている毎日!!そんな中あんなまともな人に出会えばそれなりの愛着もわくっつーの!!つまりあたしは正常だゴミムシ共が!!」
「あっはっはっは美鈴さんがキレてる〜」
「よっぽど鬱憤がたまってたのね〜」
「美鈴はあとでボコるとして、一度帰りましょう。その大公宮とやらに話をつければいいだけの話でしょ?」
「は〜い」
「大公宮に行ったらミッションが出たよ。3階で衛士が行方不明になって、それを探してほしいんだって」
「これはいいわね。ここで恩を売っておけばあとあと有利だわ」
「他の冒険者が解決するのを待ちましょうよ。行方不明事件とかマジめんどくさいです」
「でもだったら何でフロースガルさんが何とかしないんだろ。一大事じゃん」
「意外とビビりなんじゃない?」
「彼はそんなんじゃないです!!」
「はいはい」
「というわけで行かせてもらうわよ」
「彼の話では鹿さんが暴れていることが原因みたい」
「ま、サクッと終わらせて帰って見せますよ」
「開けるよ……」
「フロースガルさんの馬鹿ああああああああ!!グロ画像があるなら先に言ってくれよおおお!!」
「あはははははははは!!<<自主規制>>がいっぱ〜い!!うわっ、あそこの<<自主規制>>、<<自主規制>>が<<自主規制>>に<<自主規制>>してる〜!!あはははははははははははは!」
「放送禁止用語を並べないで」
「死体を見るのは初めてじゃないけどこんな光景は見たことないわ」
「はやくミッションをクリアして、衛兵に片づけてもらいましょう?」
「このメンバー、人を人とも思ってないわね〜」
「この道の向こうから人の気配がします。」
「でもなんか到底勝てなさそうな鹿さんが道をふさいでいるわ」
「勝てるかどうかなんて、やってみなきゃ分からないでしょ?」
「現実世界では、やってみてだめだったら死ですよ?」
「できるだけ、手を汚さない方向でいこう」
「それをいうなら『無駄な戦闘は避ける方向』でしょ?ここで大公宮からもらった『引き寄せの鈴』の出番ね〜ああいう敵を鈴を鳴らした場所までおびき寄せてくれるのよ〜」
「その通り。さあフラン、お願いよ」
「よし、この鈴を鳴らして……鳴らないよ?」
「ちょっと見せて……ああ〜っ!!この鈴中身が粉々になってる!!」
「え?何でですかね?粗悪品でもつかまされたんですかね?」
「でももらった時はちゃんと音が……もしかして、またやっちゃったかな」
「ああ、『全てを破壊する程度の能力』!!発動しちゃったのね」
「あはっ、今回の残念賞はフランね」
「しゃあないですね、いったん帰りましょう」
「なるほど、その獣を退かす手段がない、と」
「あうう……ごめんなさい〜」
「なんとかならないかしら〜」
「3階で採取できる『鈴の実』を交易所に売れば、また『引き寄せの鈴』が手に入りますが」
「採取できる人がいないわ〜」
「こないだ捕まえたシモベ共に取らせに行くのも面倒ね」
「ならばフランドール様、スキルポイントはお余りですか?」
「余ってるけど?」
「それでは『誘いの足音』に1ポイント振ってください。これは『引き寄せの鈴』と同じ効果を持つスキルです」
「へえ、そんなのあったんだ」
「じゃあテイク2ね。準備はいい?」
「うん、行くよっ!!」
「誘いの足音!!」
「うわっ!!こっち来た!!」
「今よ!あの道に入るわ!」
「やたっ!」
「これで汚名挽回ってやつですね」
「えへへ」
「えーと、この奥を進んで……」
「生き残りは一人だけだったみたい」
「気の毒ね……」
「自分の仲間がどんどんやられていくって、どんな感じなんだろう」
「大丈夫よ美鈴、あなたにそんな思いはさせないわ」
「お嬢様……?」
「だって、ウチで始めに死ぬとしたらあなただから」
「そういうオチかよ……クソッ」
「まあ、そういう冗談を言える関係って、大事よね」
「無理やりいい終わり方にしなくていいから」
「ただいまっ!ありがとう咲夜さん!なんとかなったよ」
「それは何よりですフランドール様」
「そういえば咲夜、何でフランに『誘いの足音』を覚えさせたの?レミィも覚えられるでしょ?」
「フランに見せ場を作ってあげたんでしょ?」
「いえ、ヒールの音をサディスティックに鳴らすのはレミリアお嬢様の方が絵になると思ったのですが、フランドール様が鳴らすのもまたオツだと思いまして。あっフランドール様、後で背中を……踏んでください」
「Sとかそういうの関係なく踏みつぶしてやりたい」
「やめときなさい。喜ぶから」